ビットトレントの著作権侵害の損害賠償は?相場額を弁護士が解説
ビットトレントの利用により、著作権侵害を起こしたユーザーが著作権者から訴えられるケースが増えています。技術環境の発展により、権利侵害ユーザーのIPアドレス特定が容易になっているためです。
一方で、IPアドレス特定後の民事訴訟で、著作権者からどのくらい損害賠償金を請求されるかどうかについては、よく知られていません。著作権者が民事訴訟に持ち込む前段で、権利侵害ユーザーからの和解交渉の申し出に応じるケースが多いためです。
そうした状況を踏まえながら、本記事では、ビットトレントの利用による損害賠償額の算定方法や相場について解説します。違法アップロードで著作権者から損害賠償請求を受ける流れについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
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ビットトレントとは?
ビットトレントは、P2P方式で動作するファイル共有ソフトウェアです。ファイルをネットワーク上に分散させていることから、配信サーバーに負担がかからず、ファイルを高速ダウンロードできるメリットがあります。
一方、ビットトレントを利用してファイルをダウンロードすると、意図せずして、同時にファイルを他者にアップロード(送信)してしまう仕組みが採用されています。こういった仕組みが採用されているため、ビットトレントの利用を巡っては、著作権侵害が後を絶ちません。
ビットトレントの利用による著作権侵害とは?
ビットトレントの利用による著作権侵害とは、ユーザーが漫画や映画などをダウンロードしたことで、不特定多数にファイルが送られ、結果として公衆送信権や送信可能化権などの著作権が侵害されることです。
違法ダウンロード者が引き起こす著作権侵害は、公衆送信権と送信可能化権の侵害だけではありません。違法ダウンロード者は、著作権者の許可なく、著作物を無断で利用している点で、複製権の侵害を発生させています。
著作権侵害は、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金を課される犯罪行為です。
発信者情報開示請求を経て著作権者からの告訴があった場合、権利侵害ユーザーが刑事責任に問われることは無論、民事訴訟で著作権者から損害賠償請求される可能性が高いでしょう。
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ビットトレントの利用による違法アップロードで著作権者から損害賠償請求を受ける流れ
ビットトレントの利用による違法アップロードで著作権者から損害賠償請求を受ける流れは、主に次の5つです。
● 違法アップロードによる著作権侵害の発生
● 違法アップロードに使用されたIPアドレスの特定
● プロバイダに対する発信者情報開示請求
● プロバイダから権利侵害ユーザーへの意見照会書の送付
● 著作権者からの損害賠償請求
近年は、技術環境の発展により、IPアドレスの特定が容易になっているため、上記流れについてよく把握しておきましょう。
違法アップロードによる著作権侵害の発生
まずユーザーがビットトレントを利用することで、動画や映画などを含んだファイルが第三者に違法アップロードされてしまいます。
ユーザーは当然、ビットトレントを利用する前段階で、著作権者や権利を管理する団体へ著作物の利用に関する許可を取っていません。このため、ユーザーがビットトレントを利用すると、違法ダウンロードと違法アップロードの2つの著作権侵害が発生しています。
違法アップロードに使用されたIPアドレスの特定
違法アップロードを受けて、映像や音楽の著作権を有する会社や著作権者は、「トレントモニタリングシステム」と呼ばれる調査ソフトを使い、違法ダウンロード・アップロードしたユーザーのIPアドレスを調査・特定します。
ただし、IPアドレスだけでは権利を侵害したユーザーの氏名や住所を割り出せません。そこで、著作権者はIPアドレスを特定後、プロバイダに対して当該IPアドレスを割り当てたユーザーの氏名や住所の開示を請求します。
>>ファイル共有ソフトの違法アップロードによる著作権侵害や危険性
プロバイダに対する発信者情報開示請求
著作権者は、特定したIPアドレスをもとに、プロバイダに対してプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求をします。
プロバイダから権利侵害ユーザーへの意見照会書の送付
著作権者からの発信者情報開示請求を受け、プロバイダは、著作権侵害を起こしたとみられるビットトレントのユーザーに、情報の開示に同意するか否かを尋ねる意見照会書を送付します。
プロバイダは同意や拒否など、ユーザーからの意見照会書の回答を加味して発信者情報の開示を判断します。プロバイダは、①情報の流通による権利の侵害、②不法行為の成立を阻却する事由の存在しないこと、の2条件が認められる場合、著作権者に対して発信者情報の開示が可能です。
なお、プロバイダは多くの場合、著作権者から発信者情報開示請求を受けても、法的リスクを加味して、発信者情報を開示しません。このため、著作権者はプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を行った後、プロバイダに対して発信者情報開示請求の訴訟を起こします。
著作権者からの損害賠償請求
プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求か、訴訟を経て著作権侵害を起こしたユーザーが特定できたら、著作権者は、損害賠償請求を目的とした訴訟を起こします。
上述の通り、ビットトレントの利用による違法ダウンロード・アップロードは刑事罰の対象です。このため、著作権者は、民事の対応と並行し、権利侵害ユーザーに対して刑事告訴する可能性もあります。
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ビットトレントの利用による損害賠償金の相場
最後にビットトレントの利用による損害賠償金の相場について解説します。
損害賠償金の算定方法や損害賠償に関する判例についても触れるので、ぜひ参考にしてください。
損害賠償金の算定方法
ビットトレントの利用による損害賠償金の算定方法は、著作権法第114条第1項の推定規定に基づいて規定されます。
これによれば、ビットトレントを利用した著作権侵害の損害賠償金額は、ダウンロード回数×単位数量当たりの販売利益という計算式で算定されます。
ビットトレントの利用で著作物の違法ダウンロード・アップロードが発生しても、実際に著作物が販売されたわけではありません。このため、違法ダウンロード・アップロードに伴う損害額を算定するのは難しいのですが、上記の計算式を用いることで損害額を容易に計算可能です。
損害賠償金の相場
ビットトレントの利用による損害賠償金の相場は事案によって異なりますが、ユーザーが人気コンテンツを違法アップロードしてしまった場合、数百万円、数千万円を請求される場合があります。
ただし、実際の裁判では、損害賠償の請求額がそのまま認められるわけではありません。上記の計算式で合理的な損害額を算定できたとしても、判決時に確定する損害賠償金額は、裁判所の解釈次第です。
また、権利侵害ユーザーが著作権者側に誠意を持って対応すれば、和解交渉に応じてもらえる可能性があります。著作権者や作品、侵害内容によりますが、和解交渉では、1作品当たり30~40万円が示談金の相場となっています。
>>トレントによる開示請求と示談金 – 違法ダウンロード(アップロード)対応方法と交渉ポイント
トレントの利用による損害賠償に関する判例
トレントの利用による損害賠償に関する判例には、知財高裁令和4年4月20日判決(令和3年(ネ)10074号)があります。
同判決では、原告側の著作権者が当初、多数の権利侵害ユーザーに対して最大1億6,700万円の損害賠償を主張していました。
しかし、裁判所は、権利侵害ユーザーが著作物を違法ダウンロードしてからビットトレントの使用を中止した時点までの間を著作権侵害していたと認定。損害額については、違法ダウンロードされたと推定される著作物の本数に、ストリーミング形式での販売利益額を掛け算した金額としました。
その結果、各権利侵害ユーザーが賠償すべき金額は、1万円から5万円ほどという判決が下ったほか、賠償額が234万2,000円におさまりました。
まとめ
ビットトレントを利用した著作権侵害の損害賠償金額は、ダウンロード回数×単位数量当たりの販売利益という計算式で算定されます。
この計算式に基づき、原告側の著作権者から数百万円、数千万円を請求される場合がありますが、実際の裁判では、損害賠償の請求額がそのまま認められるわけではありません。それは、1億円超の請求額に対し、判決時の賠償額が約230万円におさまるという判決が下った過去の判例からも、明らかだといえるでしょう。
民事訴訟での損害賠償額は少ないとはいえ、ビットトレントの利用により著作権侵害を起こしてしまった場合、ユーザー側のリスクが小さくなるわけではありません。IPアドレスが特定されてしまう場合に備え、弁護士に相談しておくのが最良の選択といえます。
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